高齢者の増加でアテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓の患者が増加
なんらかの原因で脳の血管が詰まったり、破れたりして脳の神経細胞がダメージを受ける病気のことを脳血管障害といい、一般的には脳卒中と呼んでいます。脳卒中の患者は社会の高齢化に比例して年々増加しており、2020年には300万人を超えると予測されています(厚生労働省)。
全身の機能を司る脳の神経細胞は、血液から酸素やブドウ糖などの栄養の供給を受けることで十分な機能を果たすことができるのですが、その血管が詰まったり破れたりすると、脳の神経細胞への酸素・栄養供給がストップしてしまい、細胞が壊死してしまいます。その結果、損傷を受けた脳の機能が失われたり、様々な障害が現れるのです。
脳卒中は、血管が詰まって血流が途絶える「虚血性」と、血管が破れて出血する「出血性」に分けることができます。脳梗塞は虚血性の脳卒中で、さらにアテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞、心原性脳塞栓に分類されます。脳出血、くも膜下出血は出血性の脳卒中となります。
動脈硬化が進行すると血管壁に傷がつき、そこにコレステロールなどが付着して粥状の塊(アテローム)をつくります。アテロームが貯まると血管の内腔が狭くなるため、血流が悪くなります。また、アテロームは血管の内側の細胞を破壊してしまうため、これを修復しようと血小板が集まって、血栓を作ります。この血栓が大きくなって、ますます血管が狭くなってしまうのです。
脳の太い動脈や頚部の動脈はアテローム性の血栓ができやすいため、脳の血管に血栓ができて詰まる「アテローム血栓性脳梗塞」で倒れる高齢者は少なくありません。資質異常症や糖尿病の人はアテロームができやすいため、注意が必要です。
アテローム血栓性脳梗塞の症状として高い頻度で見られるのが、体が思うように動かせない「運動障害」、痺れなどの「感覚障害」、ろれつが回らない「言語障害」などです。運動障害と感覚障害は、詰まった血管と反対側に症状が現れるのが特徴です。
脳の奥に血液を送る細い動脈を「穿通枝」といいますが、ここが狭くなって発症するのが「ラクナ梗塞」で、脳梗塞の中では最も患者さんが多いタイプです。ラクナ梗塞の原因の大部分は加齢と高血圧となっています。
梗塞が小さいため症状は比較的軽く、意識障害を起こすことはほとんどありません。1回の発作で後遺症が残ることは少ないですが、繰り返し発作が起こると病巣が増えてしまいます。単独の症状は軽いものの、発作が何度も続くと認知症などの発症リスクが高まることが分かっています。
心臓でできた血栓が血流にとって脳の動脈に流れこみ、脳の血管を詰まらせるのが、近年増えている「心原性脳塞栓」です。上記のアテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞と違い、動脈硬化に関係なく起こるため、症状は前触れもなく突然やってきて数秒から数分でピークに達するのが特徴です。
心臓にできる血栓は脳にできる血栓よりも大きいため、脳の太い動脈が詰まってしまい血流が途絶える範囲も広くなり、かなり強い運動障害、感覚障害、意識障害が現れます。
心臓の状態が健康な人は心臓に血栓ができることはありませんが、加齢とともに増える心房細動(不整脈の一種)の人は血栓ができやすい傾向にあります。そのため心原性脳塞栓を発症する人の多くは70歳以上の高齢者となっています。