脳ドックの普及とCT・MRIの進歩で無症状の脳梗塞も発見可能に
脳血管障害には脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などがありますが、頭痛やめまい、言語障害などの症状は似ていても、血管が詰まって発症する病気(脳梗塞)と、血管から出血する病気(脳出血、くも膜下出血)では、治療法が異なるため、検査を行って医師が正しい診断をすることが大切です。
脳を検査する器械の代表として、CT(コンピュータ断層撮影)とMRI(磁気共鳴画像)があります。どちらの検査も脳を輪切りにした状態で断面を画像化し、モニターで脳の内部を観察できます。
CTは、X線を利用して撮影したデータをコンピュータ処理にかけて、画像化します。器械に備え付けの寝台に横になった状態で、ドーナツ状の撮影機の中に頭を入れて撮影するだけですので、痛みは全くありません。
MRIは、磁気と電磁波を利用して細胞の中の原子の反応をコンピュータで読み取って画像化するものです。コンピュータによって画像化するまで30分程度時間がかかるのが難点ですが、CT検査と異なりX線による被爆はありませんし、CTでは発見できない小さな脳梗塞も捉えることができる優れた器械です。
脳梗塞の診断は、このMRIの登場によって臨床診断技術が大きく進歩しました。MRIに加えて、超音波の発信機を頚部や頭部にあてて超音波を血管に照射し、その反射具合を画像にして血管や血液の状態を調べる頚動脈エコーや経頭蓋ドプラーなどを組み合わせることで、精度の高い脳梗塞の診断が可能になりました。
CTは、撮影時間が短くて済むため、一刻も早く診断をつけ、治療を開始する必要がある脳出血やくも膜下出血を調べる際に非常に有用です。これらの出血性の脳疾患では、どんなに小さい出血部位でも白く写りますので、脳出血か否かははっきり診断がつきます。
脳梗塞と診断がつくと、必要に応じて、頚動脈エコーや頚頭蓋ドプラーの検査を実施して、動脈硬化を起こしている血管を捜します。頚動脈エコーは、首の脇を流れる動脈の血流の速度の変化を測定することにより、動脈硬化の有無と程度を調べます。血流が早ければ早いほど、血管が狭くなって、動脈硬化が進行していることを示しています。動脈硬化が強い場合や、塞栓症が疑われる場合は、経頭蓋ドプラーで脳の血流を見ます。
脳疾患に特化した検査を行うことで、病気の早期発見と治療に繋げる目的で行われる「脳ドック」の受診者は年々増えており、発作や麻痺などの症状がないのに小さな梗塞が見つかったり、小さなコブ(動脈瘤)が発見され、自身の脳疾患のリスク判定や生活習慣の改善などに役立てているようです。
自覚症状のない隠れ脳梗塞、放置すると出血の恐れがある未破裂の脳動脈瘤などのほかにも、脳ドックで発見できる病気には、脳動静脈奇形、モヤモヤ病、認知症などが挙げられます。片頭痛や眩暈、もの忘れなどの自覚症状がある方だけでなく、親族に脳梗塞になった人がいたり、高血圧、喫煙習慣、肥満などの危険因子がある場合は、一度脳ドックで検査を受けたほうが安心でしょう。
脳ドックでは、総コレステロール、中性脂肪など、脳梗塞の危険因子である動脈硬化に関する血液検査、眼底検査、心電図検査なども行います。脳ドックの検査を受ける場合は、日本脳ドック学会の基準を満たした検査項目を実施いている施設、同学会の会員の医師がいる施設を選ぶことも、病院選びの一つの基準となるでしょう。